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スターマヤという品種の事

こんにちは。瀬下です。
ここ2か月ほどで20商品以上の商品ページ作成をしておりますが、店頭で役立つ情報やプレゼンしたいと思える商品はありましたでしょうか。
ネットで販売させて頂く商品につきましては、その商品を通してコミュニケーションが生まれるか、使いやすい情報やロースター様のコンセプトに合うものが少しでもあるか。なかなか1つ1つのロースター様に合わせた資料作成ができない分、できる限り全ての情報を載せるように商品ページを作成させて頂いております。

とわいえ、商品ページの制限の中で記載しきれないこともあり、今日はこうしてブログを書かせて頂きました。

今回は、来週販売を開始する予定のメキシコ フィンカ・チャンユル農園のスターマヤという品種について書こうかと思います。

コーヒーの生産において、ハイブリッド種という言葉を多く聞くかと思います。これは、耐病性や生産量が優勢な品種の生産を目指し開発され、近年ではこうした特性に加えてカップクオリティを考慮した品種が出てきています。

しかし、どのような交配品種においても、メンデルの第一法則のようにF1(雑種第一世代)は、元となった2種の親木の優性遺伝子だけが発現するため、雑種第一世代は全て同じ特性を持ち合わせる事になります。※優性遺伝子だけが発現するだけで、その遺伝特性自体の優劣ではありません。

しかし、F1品種同士を掛け合わせると、第2世代では優性3:劣性1の割合で劣性遺伝子が表れます。メンデルの第2法則ですね。この優劣は発芽速度や葉の色、実の形、風味などあらゆる形質で分離しますので、第2世代において第一世代と同一の性質を持つ事は非常に難しくなります。第3世代はもっとバラバラになります。

その為、病気の耐性や収穫量が多く、成長も早いF1品種があったとしても、その遺伝的特性は1世代限りとなり、2世代目からは徐々に劣性遺伝子が発現し、当初想定していた品種としての意義が薄れていきます。

通常コーヒーの植え付けは種子によって行われますが、収穫したチェリーから成長させることで、当初の特性を完全には引き継がないF2品種となり収穫量や木の丈、見た目、風味などいずれかに違いが出てきます。その為に、F1種子を用意する必要がありますが、各国のラボや種子センターなどで大量のF1品種の種を作るためには、除雄などで自分の花粉では種を付けないようにしたり、受粉ではなくF1種を培養する事で育てる技術など、大量に継続してF1品種だけを生産するような技術はコーヒーにとってこれまでありませんでした。
 当然ながら上記のように生産されたF1種の種はコストも高く、また市場に出回るハイブリッド品種がF2品種である可能性や農園で自家採取したF2の種子を使い農地を拡大する可能性など、市場に広く出回るほどにいくつかの課題を抱えていました。

 スターマヤという品種は、こうしたF1の問題を解決するべく開発された品種でマルセレイサ種(サルチモールとスーダンルメの交配種でさび病耐性が高く、カップクオリティに優れた品種)とエチオピア・ルーダンの原生種による交配種です。この原生種の特性が非常に重要で、雄性不稔という仕組みを利用し、F1交配品種を毎年効率よく生産できるようにしています。

雄性不稔とは、非常に簡単に述べれば、花粉を作らない性質の事を指します。この性質を持った木をF1種の片親とすることで、この雄性不稔の木に実るチェリーは自家受精することなく、他者の花粉にて確実に受精が行われます。この性質を利用する事で、品種交配において確実にF1品種を生産する事ができます。

これによって、先に問題とされていた各国のラボや種子センターなどで大量にF1が作成できない状況から、専用の設備や技術を必要とせずに2種の木を用意したシードガーデンを構築するのみで確実にF1品種が生産できるようになったと言う事が、大きなブレイクスルーとなっています。

雄性不稔を用いた品種改良の歴史は非常に古くからあるもので、1925年にタマネギから発見されたそうです。その後、日本でもイネや大根からこの特性が発見され、様々な農作物の生産を支え、食糧問題を解決してきました。こうした品種が主流になる事で、固定腫や在来種の生産が減り、多様性が薄れると危惧される側面も併せ持ちますが、生産地における災害後の復興にも大きな役割を持ち、品種改良の大きな発見とされています。

コーヒーにおいては、野菜などと異なり毎年作付けが必要な植物ではなかったために、近年まで十分な調査がされてきませんでしたが、2001年、フランスCIRADとECOMとの官民コーヒー育種プロジェクトを進める中、コスタリカの種子研究所・バンクであるCATIEにおいて雄性不稔のアラビカ種を発見しました。これをきっかけに、新世代のさび病抵抗性品種であるMarsellesaと交配し、ニカラグアで生産テストを行った結果、良好なパフォーマンスが確認され、Starmayaとして本格的に生産する事になりました。

近年、中米で大きな被害を齎したさび病の蔓延。そうしたさび病への耐性を高めると共に、今後も深刻な農地被害が起こった際に、生産性と風味に長け、農地の復興の一助になるこの品種の登場は、コーヒー生産が抱える様々な問題を解決する品種として大きな期待が寄せられています。

余談にはなりますが、この記事を書いていて今現在販売している各ロットの交配世代までは我々も、おそらく生産者自身も把握していません。現実には自家採取して農地拡大などしているはずですので。コーヒー生産の歴史は古いので、F1という新しい概念と伝統的な農園での栽培品種や詳細な来歴・世代は個別に考えた方が良いかもしれません。